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【特別寄稿】英語で英語の授業をするための指導法:内容と言語を統合して(CLIL:クリル)

目次[非表示]

  1. 1. はじめに
  2. 2. 内容と言語を統合的に学んで-CLILとは?―
  3. 3. コロナ禍におけるCLILとオンライン授業
  4. 4. CLILと動機づけを世界的にみて
  5. 5. まとめ
  6. 6. 参考文献

1. はじめに

みなさんは、これまでの学習過程で「ワクワクする」「もっと知りたい」「楽しくて仕方がない」といった経験をされたことがあるのではないでしょうか。「もっと学んでみたい」と思われた科目があったのではないかと思います。私は学部生時代にアメリカで心理学部を専攻していましたが、英語で心理学の教科書を読んでいる時にワクワクして、「次のページには何が書いてあるんだろう」と思った経験があることを記憶しています。この「ワクワクする経験」や「英語で心理学を学習する」は、今からご紹介する「英語への学習動機づけ」と「内容言語統合型学習方法(以下、CLIL: Content and Language Integrated Learning)」 に関わります。それでは、どのようにして英語で英語の授業を行い、英語と内容を有機的に統合し、効率的に楽しく生徒さん達が学習することができるかについて、お伝えしていきたいと思います。


2. 内容と言語を統合的に学んで-CLILとは?―

近年、CLILって耳にされることはありませんでしたか?CLILとはヨーロッパの外国語教育において教育実践と研究が行われている教授法です。CLILでは「内容」と「言語」を同時に行っていき、「内容」を学習するための手段として「言語」を使用し、学生さん達が学習を行う上で偶発的に英語の向上を目指すものです。日本で考えてみると、英語の授業を英語で行い、「内容」を英語で学ぶということになります。CLILにおける「内容」は、例えば「理科」「社会」「数学」のような教科でもあれば、トピック型の内容もあり、例えば「オリンピックゲーム」「環境問題」「エコシステム」なども考えられます (Coyle, Hood, & Marsh, 2010参照)。英語の授業において英語で学んで、内容学習をして、自分で調べて、考えて、英語で自分の意見を発信して、討議して、という過程を繰り返しているうちに「英語授業が楽しくなった」「自分もやればできるかも」と思える学生さん達の姿があるようです。 


3. コロナ禍におけるCLILとオンライン授業

コロナ禍の時代を迎え、オンライン授業となったため、オンデマンド型授業とリアルタイム型授業を併用してオンラインでCLILを試みてみました。インターネットリソースを使って視覚教材を多く取り入れて、パワーポイントに英語で音声を吹き込み、YouTube を作成して CLILの学習教材を作成しました。2021年度春夏学期のシラバスは「Global Issues」というテーマから、世界で起こっている様々な社会現象を批判的に考察するという視点から授業を展開していきました。世界中の諸問題を批判的に考察して意見を発信するために「英語で考えて発信する力」が学生さん達には求められました。 

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Source:  
UNICEF: https://www.unicef.org/social-policy/child-poverty
WHO: https://www.who.int/emergencies/diseases/novel-coronavirus-2019/situation-reports


確かにCLILは学生さん達が喜んでくださいます。実際にCLIL授業はとても効果的なのですが、教師としては教材選定と教材作成がとても大変です。夏休みや春休みを使って教材を作成し、録音前には英語の練習もしています。そのように苦労のあるCLILですが、学生さん達が英語で英語を学び、「内容」を楽しみながら学習できる方法であるということから、CLILを用いて英語の授業を行っています。CLILは、英語と内容を有機的に繋げることで、学生さん達にとって、効果的に英語学習ができる方法であると思っています。 


4. CLILと動機づけを世界的にみて

次に世界的な視野でCLILを見ていきたいと思います。CLILを使ってどのように学習者が動機づけられたかについて、世界の研究を概観していきましょう。スペインの研究では、中学生を対象としてCLIL学習者とNon-CLIL学習者で比較をしたところ、CLIL学習者の方が肯定的な態度を示したということ、また長期に渡って動機づけが維持、喚起したという傾向にあることを示しました(Lasagabaster, 2011)。スウェーデンの研究では、CLIL学習者Non-CLIL学習者よりもGrade 10の時点と、Grade 12の両時点において、動機づけや情意については高い傾向にあると報告しています(Thompson & Sylvén, 2019)。日本の研究においては、CLILの授業後に、動機づけや自信がついたという報告があります(Nishida, 2021)。このように世界的な研究の結果を見ても、CLILは学習者の情意的な側面に肯定的な変化を与えていると言えるでしょう。 


5. まとめ

私が学生時代に「英語で心理学」を学習することに「ワクワクし」、心理学の内容を学習すると同時に英語を学んでいた経験から、学生さん達が「ワクワク」しながら学べる方法をずっと模索してきました。その1つの手掛かりがCLILであると思っています。学生さん達の興味関心を引き付ける「内容」学習を行い、教師が英語で英語の授業を行っていても「内容が面白くて一生懸命勉強しているうちに英語も学んでいた!」という偶発的な瞬間が起こり、学生さん達がいつの間にか動機づけられることを願ってやみません。また、学校教育にいる期間だけでなく、生涯に渡って英語学習の動機づけを維持・喚起していってくれることを望んでいます。さらに、グローバル化社会に向かって前進していけるように、英語学習を継続してほしいと願っています。CLILはその願いを叶えてくれる1つの道しるべだと思っています。


6. 参考文献

  1. Coyle, D., Hood, P., & Marsh, D. (2010) C.L.I.L. Content and Language Integrated Learning. Cambridge University Press. 
  2. Lasagabaster, D. (2011) English achievement and student motivation in CLIL and EFL settings. Innovation in  Language Learning and Teaching 5, 3-18. 
  3. Nishida, R. (2021). A longitudinal study of Japanese tertiary students’ motivation, perceived competency and classroom dynamics in Soft-CLIL. Talbot, K., Gruber, M., & Nishida, R. (eds). The Psychological Experience of Integrating Language and Content. Multilingual Matters. 
  4. Thompson, S.A., & Sylvén, L.K. (2019) CLIL and motivation revisited: A longitudinal perspective. In L.K. Sylvén (ed.) Investigating Content and Language Integrated Learning: Insights from Swedish High Schools (pp.76-97). Multilingual Matters. 


執筆者紹介 ​ABOUT THE WRITER

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西田理恵子先生
大阪大学大学院言語文化研究科・准教授
South Dakota State University (BS in Psychology)、University of Kent (MSc in Forensic Psychology)、関西大学大学院外国語教育学研究科博士課程後期課程修了。博士(外国語教育学)。国内外で40編以上の学術論文・書籍(ブックチャプター)・報告書を執筆している。海外のジャーナルでは Modern Language Journal、Systemに掲載を行い(八島智子氏との共著)、海外書籍では Multilingual Matters からThe Psychological Experience of Integrating Language and Content (2021)を編著として出版している(Kyle Talbot氏 Marie Gruber氏との編著)。国内においては、LET、ARELE等、数多くの論文を執筆しており、「論文賞」(LET2014年度)を始め、大阪大学総長奨励章、大阪大学賞等、数多くの賞を受賞している。 


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